日本が先進国の仲間入りをしてから久しいですが、私達が暮らす住宅の性能や居住環境に対する意識は決して高いとは言えません。「冬の住まいは寒いものだから暖房で何とかしよう」、「夏は暑いから冷房で何とかしよう」と、エネルギーや資源を大量消費しながら言わば力ずくで暑さ・寒さに適応してきた歴史があります。ところが高齢化が進み、安心して過ごせるはずの住宅内部でヒートショックや熱中症などの健康被害が目立つようになってきました。高齢期に、家族とともに自宅でより長く健康に過ごせることを誰もが願っていると思われますが、経済的に制約のあるライフステージにおいては住宅性能を上げるアプローチには限界があると言えるでしょう。
このため、居住者自身が住まいに対する自覚を高め、自助または共助によって住環境を改善できる社会的な仕組みを構築することも重要です(参考:関連リンク)。
これは、高齢期の住環境に限った話ではなく、子どもの成育空間に目を向けても同じように劣悪な環境である場合が散見されます。ドイツをはじめとして子どもの成育空間に対して詳細な環境基準が定められている国々がある中、日本が居住環境を重視してこなかった要因も丁寧に整理する必要があるでしょう。この「成熟社会」では、各国各自治体が続々と気候非常事態宣言を出すなかで、建物で消費するエネルギーを最小限に抑えながら、居住者や利用者の健康と快適性が維持できる居住環境を創出するという難しい課題が突き付けられています。単独の研究分野では解けないこのような複雑な課題を、様々な分野の研究者やステークホルダーと協働することで解決すべく研究を行っています。