介護施設は医療施設ではない ── 現場が提起した悲痛な現状
新型コロナウイルス感染症をめぐり、介護現場では、従来の介護サービスに加え、より綿密な感染症防止対策及び感染症拡大対策への対応が求められています。このような高齢者施設の現状について、現段階では未だまとまった調査がなされてきていません。長引く感染対策の現状において、新型コロナウイルスが高齢者施設にどのような影響を与え、またどのような課題を抱えているのかを明らかにする必要があります。
そこでYNU成熟社会コンソーシアムでは高齢者法研究会と協賛し、2021年3月、一般社団法人Uビジョン研究所のご協力の元、高齢者施設の中でも特に介護度の高い特別養護老人ホーム3施設を対象にヒアリング調査を行いました。調査では、新型コロナウイルス感染症への対策の内容と、施設への影響についてヒアリングを行い、そこから見えてきた課題をまとめました。
- 人員に係る補助金の充実と職員の福祉の精神に依存しない体制の必要性
職員は命にも関わる仕事であるのにも関わらず充実した保障がなく、決して多いとは言えない報酬で、サービスを継続しており、職員の福祉の精神に依存せざるを得ないという現状にあります。人員に関する補助金は存在するものの、これらの額、内容が妥当であるのか。その検討及び今後の補助金についての長期的な見込みを示し、人員への配慮と施設の経営の安定化につなげていく必要があります。
- 介護と医療の違いを改めて認識し、介護施設の限界を知る必要性
いずれの施設においても、入居者に感染者が発生した際には、医療機関にて治療・入院をさせてほしいという強い要望がありました。現在、介護施設の感染者や療養者については、介護施設での療養が求められています。ですが、介護施設では治療は行えません。さらなる新型コロナウイルスの感染拡大にもつながりかねない危険が、介護現場では心配されていました。医療機関の逼迫という課題はあるものの、治療・入院が必要な高齢者の医療機関での受入について、改めて考察・検討することが求められています。
- ユニット型における感染症対策の有効性
感染者が発生したときの対応やゾーニングといった、さまざまな感染症対策において、ユニット型は運用しやすく、対策を講じやすいことがわかりました。感染症対策といった視点からも、ユニット型への移行がしやすくなる支援、制度づくりが求められています。また、従来型からユニット型への移行では、単に居室を区切るだけではなく、感染症発生時のゾーニング等を意識した構造を検討する必要があり、専門家による視点が欠かせないでしょう。複数人数の高齢者が滞在する部屋では感染拡大の危険性が高まり、従来から課題となっていた施設のユニット型が進まないという課題を、新型コロナウイルスはより明らかに浮かび上がらせました。
- マニュアル・BCP(事業継続計画)整備の有効性
コロナ禍で多くの職員がストレスを抱く中、職場での不安を取り除き安全・安心に働けることが何よりも重要となります。そのためには、職員に対し施設が正確な情報を伝え、明確な行動指針を示すことが必要です。感染症や災害発生時にしっかりと対応し入居者や職員の安全を守ること、また職員が必要以上に不安をいだきストレスを抱えずに済むこと。そのような目的を念頭に、マニュアルや計画を形骸化したものとせず、策定・運用していくことが必要となることがわかりました。
今後も様々な角度から特別養護老人ホーム及び他の高齢者施設への調査を行い、知見を重ねていくことが求められています。